【「surrender」ナカヤマアキラ(Plastic Tree)×逹瑯】
――「surrender」は、アキラさんらしい逹瑯くんの表現だと思いましたが、最初お願いされたとき、正直、どんな思いでした?
ナカヤマ:いや、覚えてくれてたんだ! って正直すごく嬉しかったです。昔ね、僕から逹瑯くんに“いつか曲作らせてよ”って言ってたんだもん。
――あ、そうだったんですか!?
ナカヤマ:そうそう。
逹瑯:俺は、逆にそれをアキラさんが覚えてくれてたことが嬉しかったですけどね。
ナカヤマ:それはまた嬉しいな(笑)。
――今回は“丸投げ”というコンセプトでもあったみたいですが、アキラさん的にはどんな曲を作ろうという発想だったんですか?
ナカヤマ:僕ね、いわゆるパワーで持っていくシンガータイプのボーカリストと一緒にやったことがないので、そういう人と一度やってみたいなぁって思って、誰か知ってる人の中に居なかったかなぁ? って思ってボーっと考えてたときに、“あ、逹瑯くん居たじゃん!”って思ったんだよね。それで、昔、一回声掛けたことがあったっていう。
――何年前くらいの話ですか?
ナカヤマ:どれくらいだろう?
逹瑯:結構前ですよね。
――MUCCがまだ英語使ってない頃ですか?
ナカヤマ:いや、英語はもう使ってたな(笑)。
逹瑯:そういう意味でいうと、ここ4、5年の話だと思うなぁ〜。どっかのイベントの楽屋とかで話したんですよね、たしか。
ナカヤマ:そうそう。本当に他愛も無い話をしてたときにね。サラッと。でも、そのときは、自分のプロジェクトとしての目線で曲を考える側での話だったから、今回はまたそことは違ってさ。丸投げとはいえ、逹瑯くんの初めてのソロアルバムだし、いろんな作家さんが書くってところだったから、またそうなると、どういう曲がいいのかな? っていうところになってくるからね。なので、まず、もうちょっとソロというところをちゃんと考えようと思って。自分の中で、今回どうしてソロをやることになったんだろう? とか、このソロをどういう意味のあるものにしたいんだろう? とか、楽曲制作に入る前に、そういうところから入ったんですよね。で、じゃあ、僕が提供する曲では、逹瑯くん1人で勝負してもらおうと思ったんですよ。
――逹瑯1人で勝負とは?
ナカヤマ:人の要素は逹瑯くんしか居ないっていう曲を作ろうと思ったんです。サポートプレイヤー的な人が臭う感じじゃない楽曲にしたかったというか。
――なるほど。たしかに、今回のアキラさんの楽曲「surrender」は、アキラさんが楽曲制作をしたいって逹瑯くんに対して思ったという“いわゆるパワーで持っていくシンガータイプのボーカリストと一緒にやったことがないので、そういう人と一度やってみたい”というところから作られた音ではないですもんね。
ナカヤマ:そうそう。そっちの方向で作っていたら、またちょっと違う方向性の楽曲の提供になっていたと思うからね。そことは全く別ベクトルだったよね、今回は。今回この楽曲のクオリティを上げていくのは、逹瑯くんのパフォーマンスでしかないから。今回はこれでいってみちゃおうかなって、逹瑯くんに完全に託した感じだった。
――逹瑯くんのこの曲に対する第一印象は?
逹瑯:最初に聴いたとき、“難しい曲だな”って思ったんだけど、何回か聴き込んでるうちに、どんどん癖になってきちゃって。仮歌ってアキラさんが入れてくれてたんですよね、あれって。
ナカヤマ:そう。自分で入れてる。
逹瑯:とにかく難しいから最初は完全に覚えるしかないなと思って聴き込んでたんですけど、そしたら、癖になる曲だなって思えてきたんですけど、そこからですよ、果たして、これを俺が歌えるのか? っていうのが心配になってきて。これは自分で実際にちゃんと歌ってみないとだなって思って、符割りとかもちゃんと整えて嵌めてみて、歌ってみたんですよ。本当に自分っぽくはない曲だったから、自分でも歌ってる自分を想像出来なかったし、周りのスタッフからも“大丈夫? アキラさんからの曲、歌える?”って心配されてたんだけど、歌ってみたら自分の中で“ん? 案外嵌ってんじゃね?”って思って。自分でも意外だったんだけど、自分で気付いてなかった引き出しを引き出された感覚があって。
――手応えがあったってこと?
逹瑯:そう。あ、いい感じかも。っていう感じがしたの。実際アルバムが出来上がってから、この曲、聴いた回数でいったら、めちゃくちゃ上位かもっていうくらい聴いてる(笑)。すっごい癖になって(笑)。
ナカヤマ:おぉ! 本当? それは良かった。そう言ってもらえるのが1番嬉しいよ!
逹瑯:ライヴでやるとまた全然印象が変わるんですけど、ライヴだと歌っててすごく気持ちいいんですよ。不思議だなぁ、この曲。っていう。掴み所が全くないんだけど(笑)、なんかすごくキャッチーなんですよ。マニアックなんだけど、すっごくキャッチーっていう。本当に言い表しきれないんだけど、とにかく不思議な感覚。ライヴのアンコールの為に、何曲かアコースティックアレンジにしようってピックアップしたとき、真っ先にこの曲選んだんです。
ナカヤマ:え〜、そうなんだ! すごいな、それ嬉しいし、すごく聴いてみたいよ。
逹瑯:すごくいいんですよ、アコースティックも。ピアノとバイオリンと歌で、アンコールで歌わせてもらったんですけど、本当に原曲の感じとは全く印象が変わるんです。原曲を何回も気に入って聴いてたら、“これ、ピアノだけでも絶対に嵌るだろうな”って思えたんです。でも、実は、やってみるまでは想像つかなかったんですけどね、なんとなく嵌る気がしたんです。大当たりでしたね。
――すごく心地良いんですよね、アコースティックヴァージョンは。
逹瑯:うん。すごく心地良い。こういう曲って、どういうところから作っていくんですか?
ナカヤマ:なんだろ? 普通にバンドの曲を作るときと同じように、まずデモを作るんだけどね。メロディーをザッと歌ってみて、そこからどんどん要素を足してってる感じ。
逹瑯:え!? この曲メロディー先行なんですか?
ナカヤマ:そう。あんまりメロ先に聴こえないけどね(笑)。
逹瑯:全く。メロ先だとは思わなかったです。
ナカヤマ:作業中にどんどん逆転していったりはするんだけどね。いろいろ動かせてみようって感じで作っていく。僕が曲を作るときは、バンドも曲もだいたい同じ流れ。工程としては、いつもと同じだったかな。
逹瑯:今回、アキラさんに歌詞もお願いして良かったなって思ってるんですよ。俺がこの曲に歌詞を乗せてたら、こういう符割りにはなってなかったと思うんです。
ナカヤマ:ほほぉ。
逹瑯:このアキラさんならではの符割りが、すごく気持ちいいんですよ。
――たしかに、歌詞の印象で、より浮遊感が増してる感じがあるよね。
逹瑯:そう。メロディーもなんだけど、符割りが気持ちいいんだよね。そこがすっごい癖になるの。歌ってても癖になる。この符割りは、自分には絶対に出来なかったから。符割りが違ったら、この気持ち良さは出せなかったんじゃないかな? って思う。
――アキラさん的に、歌詞へのこだわりはどんなところだったんですか?
ナカヤマ:歌詞がね、不思議と悩むことなくサラサラって書けちゃったんだよね。最初にも話したけど、“今回どうしてソロをやることになったんだろう? とか、このソロをどういう意味のあるものにしたいんだろう?”って、いろんな状況を考えたりしてた中で、今だからこそ歌える歌ってあるのかなって思ったりして。逹瑯くんのことを詳しく把握している訳ではないし、日々の状況を共有しているわけではないんだけど、なんとなくニュースとかでどういう状況か目に入ってくる世の中だから、歌詞を書きやすい状況だなと思って。なので、この歌詞のテーマとしたところは“人”なんです。1番近しいと思っている人とか、人生のパートナーですら、そういう当人同士ですら、人はよく分からないものなんだっていう歌詞なんです。よく、人から“どうしてこうなったの?”って言われたとしても、それって言葉で説明出来るものじゃなかったりするときってあるでしょ。“なんでこうなっちゃったのかな?”っていう言葉しか出ないことばかりって言っても言い過ぎじゃないかもしれない。そういう感情を歌詞に落とし込みたいなって思ったんです。
――言葉じゃ説明出来ないことってありますよね、本当に。
ナカヤマ:そうそう。恋人同士とか、男女間の別れに関してもそうだよね。理由を付ければ浮気だとかなんだとかになるんだろうけど、本当はそういうところじゃないでしょ。山程ある課題をちゃんと書いてみようと思って向き合った歌詞だったんです。僕にしては、ちゃんと真面目に書いた歌詞でした(笑)。この歌詞も今回逹瑯くんが歌ってくれるということを前提に書いた言葉だったからね。今の逹瑯くんだったら、ちゃんとパフォーマンス込みでこの歌詞を歌いこなしてくれるだろうと思って。この曲も歌詞も、逹瑯くんが歌ってくれなかったら、没にしてたんで。正直、曲はOKって言ってくれるかな、とは思っていたけど、歌詞に関しては、NG出るんじゃないかな? って、ちょっと心配してたんだけどね。
逹瑯:いやいやいや、全然。内容的にもすごく面白いなって思いました。自分には書けない感覚の歌詞だなって。
ナカヤマ:おぉ、それは良かった。本当に心配だったんで、竜太朗(有村竜太朗)に聴いてもらって相談したりもしたんだよ。
逹瑯:おぉ。そうなんですね。
――竜太朗さん、なんておっしゃってました?
ナカヤマ:竜太朗に聴かせたとき、ウチのメンバー全員居たんですけど、みんなすっごい真剣に聴いてましたね。なんて答えていいか分からない感じでした(笑)。否定的な意味じゃなくて、ロックバンドの人がロックバンドの人に提供する曲と思って聴いていたと思うから、最初は“え? この曲にしたの?”みたいな感じの反応で(笑)。なんぞや? みたいなことになってました(笑)。作風にビックリしたのか、何にビックリしたのか分からないけど(笑)。でも、“意外だね!”っていう反応ではなく、ビックリしながらも“なるほどね!”の方だったみたいですけど。でも、曲調とか歌詞とかも含め、逹瑯くんが歌った感触として、あまり違和感がなかったんだと思います。
逹瑯:あ、でも、それ分かります。俺も、アキラさんからこの曲貰ったとき、そこまで違和感感じなかったですもん。こっちか! っていう感想でもなかったし、なんだろな、本当に不思議なんだけど、自分の中で、“アキラさんにお願いしたら、こんな感じの曲が来るんじゃないかなぁ〜”っていう想像があったんじゃないか? っていうくらい違和感なく受け止められたんです。でも、アキラさんが最初に言ってたみたいに、この曲と勝負出来るのは俺の歌しかないな、この曲を生かすも殺すも俺にかかってんだなっていうプレッシャーはすっごくありましたね。でも、Twitterの反応とか見てると、アキラさんの作るこういう曲調、ファンの人たちすごく好きみたいで、その曲調を俺が歌うっていうのがテンション上がるって言ってくれていて。
ナカヤマ:あははは。いいね、そういう反応。嬉しいね。
逹瑯:そうなんですよ。“(得意げに)だろっ”って思いましたもん(笑)。
ナカヤマ:あははは。
逹瑯:でも、本当に不思議ですよね、この曲って。感情をすごく抜いて歌っていく曲じゃないですか。歌い回しから、オケから、すごく感情的な内容を歌っているのに、ニュアンスとかで誤魔化しながら、何を歌っているのか分からない感じにわざとしてる感じがするんですよね。
ナカヤマ:うんうん。わざと抜いてる感じとか、すごく分かる。そうだよね。
逹瑯:エモいことを歌っているし、エモい感情を感じるはずなのに、でも、分からないんだよ、、、っていう、ぼやける感じに感情を抜いていく感じの世界観だなって解釈しているんですけど、ライヴだとすごいエモいんですよ。感情を抜いていくっていう作業がエモく感じるっていうか。
ナカヤマ:なるほどね。ライヴすごく観てみたいんだよね。めちゃくちゃ気になってて。さっき話してくれたアコースティックヴァージョンも含めて、すごく気になる。
逹瑯:本編ではバンドアレンジにして生楽器を入れてやってるんで、印象だいぶ変わってると思います。音源だとバンドが居ないから、バンドサウンドのエモさっていうのも加わって、力強くなってるってのはありますけど、それによって、“ぼやける感じに感情を抜いていく感じの世界観”っていうのが、また違った印象に響いてる感触があるんですよね。自分で歌っててもそう感じる。
ナカヤマ:音源だけの部分で、そこをわざと補わなかったところが、そういう仕様(バンド編成)でやるから必然的に変化するだろうし、それってすごくデカイことなんですよ。めちゃくちゃ興味ありますね。さらにアコースティックヴァージョンもやってくれてるとなると、そこでもまた全く聞こえ方が変わってきてるんだろうなって思うし、本当に生でそれを聴いてみたい。やっぱ僕も逹瑯くんもバンドマンだから、人と人が音を紡ぐっていうことがどれだけ勝るのかというのを理解しているから、人がパフォーマンスする力というのを、より見せつけられる場にもなっているだろうね、ライヴという場所が。
逹瑯:そうですね。今、ライヴでやるときは、サポートメンバーでやってるんですけど、サポートメンバーそれぞれが自分のバンドを持ってるバンドマンなんで、すごく勘がいいんですよ。リハでやってるときと本番でも全くやってる感触が変わってくるみたいだったし。最初は“こんな感じなのかな?”って手探りでアレンジしてたものが、ライヴをやる度に“あ、この曲の解釈ってこうなのかも!”っていうのがだんだん分かって、みんなで共通意識で“これって、こっちですね”って言い合いながら変えていってたから、ライヴを重ねるごとに曲が仕上がっていってるんですよ。またそれが楽しくて。ソロなんだけどバンドを感じるんです。
――ライヴだとアキラさんが狙った“逹瑯くん1人で勝負してもらおうと思った”っていうところとは、また違った形が観れるということですね。
ナカヤマ:嬉しいわ。それがまた嬉しい。それは自分の作った曲という感じじゃなく、純粋に音楽として聴いてみたい。その変化を観てみたいな。
逹瑯:アキラさんの他にも打ち込みで貰った曲もあるから、そういう曲に関しては、敬意を持って“この曲、俺が貰ったものだから、好きにさせてもらうぜ!”っていう気持ちで、好きにアレンジ入れてやっちゃってるんで、本当に音源とは違ったものに感じてくれてるんじゃないかなって思うんですよね、観に来てくれてる人たちも。
ナカヤマ:うん。それが正解ですよ。ライヴは表現しに行ってるんだから。逹瑯くんが常に右肩上がりで表現出来てるんだったら、それを見れるのも楽しいしね、お客さんも。それもソロじゃないと出来ないパフォーマンスなんだと思うからね。
逹瑯:そうですね。本当に楽しいです。音源とは違ったものをライヴでは観せられているので、本当に生ものな感じというか。
ナカヤマ:そうだね。もう音源は音源で1つの作品だからね。それでいいと思う。自由にライヴごとに形が変化していくのが楽しいんだと思うから。
逹瑯:ですね。ちょっと話戻っちゃうんですけど、プラ(Plastic Tree)の中でも、歌詞とかNG出たりすることあったりするんですか?
ナカヤマ:ありますよ。“ここを、もうちょっとこうしたい”とか“ここはどういう意味なんだ?”とか。近年こそあまりないですけどね。昔はNGとかありましたよ、普通に。MUCCは?
逹瑯:MUCCも全然ありますよ。でも、またバンドのときとはちょっと受け止め方が違ったりもしたのかな。ソロで、今回いろんな人たちに曲とか歌詞を書いてもらって自分なりに思ったのは、これを表現しきるのは俺だろ? これを表現しきれないのも俺だし、表現しきって完成させられるのも俺だから、表現しきれなかったらカッコ悪いなって思ってたところはありました。プレッシャーもあったけど、“絶対に形にしてやるぞ! 完成させてやるぞ!”っていう強い思いは、すごくあったなぁって、振り返ってみて改めて思いますね。基本的にどの作品にもNGは出さないって決めてたので。
――この曲はアルバムの中でも特に難易度が高かったと思いますね。最初にイントロを聴いた時点で、早くも“おぉ。これ、逹瑯くん歌ったんだ!”って思いましたからね。それくらい意外な楽曲でした。
逹瑯:そうなんだよね。でもね、この曲キーがめっちゃ気持ちいいのよ。声が出るところと、ファルセットになるところのキーがめっちゃ気持ちいいの。
ナカヤマ:お。それは良かった。
――アキラさん的には、逹瑯くんのキーも調べて作られたんですか?
ナカヤマ:ううん。キーは闇雲でしたよ(笑)。キーに関しては、上下2段階くらいずつ送らなくちゃいけないかな? って思ってたくらい闇雲でしたね。やっぱね、キーって一回歌ってみないと分からないところがあったりするんですよ。声は出るけどパフォーマンスし辛いっていうパターンもあっておかしくないことなんで。
逹瑯:今回キーでちょっと下げてもらったのは、秀仁さん曲で半音下げてもらっただけだったかな。あとは貰ったまま歌いきりましたね。
ナカヤマ:すごいすごい。それはすごいよ! でも、本当の意味で音楽を楽しめてる感じだね、今回のソロは。
逹瑯:そうですね。純粋に音楽というものを楽しめてる気がします。またライヴ観に来てください! 本当に素敵な曲をありがとうございました。
ナカヤマ:いえいえこちらこそです。ありがとうございました。
取材・文◎武市尚子